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諏訪簡易裁判所 昭和31年(ハ)33号 判決 1956年10月24日

原告

岩波寛

被告

内藤睦

主文

被告は原告に対し金三万三千三百八十二円の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金一万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

一、原告が昭和三十一年三月五日原告所有の軽自動車を運転して諏訪市大字上諏訪大和地籍を進行中、被告が自動二輪車を運転して進行して来て土田富次の乗つていた自転車に追突し、更に原告の軽自動車に正面衝突する事故の発生したこと(ただし、原告の軽自動車に衝突したのが自動二輪車か自転車かは争がある)、被告が当時無免許でしかも時速約五十粁の速度で運転していたこと、被告が土田富次の乗つていた自転車を追い越すに際し警笛を鳴らさなかつたこと、この事故によつて原告所有の軽自動車が破損したこと及び原告が当時道路左側を進行していたことはいずれも当事者間に争がない。

二、そこで先ず被告の過失の有無について判断する。

成立に争のない甲第五ないし第九号証及び被告本人尋問の結果に当事者間に争のない事実を総合すると、次の事実を認めることができる。

「被告は国道二十号線上を岡谷方面に向い時速三十粁の制限速を越えた時速約五十粁の速度で自動二輪車を運転進行し諏訪市大字上諏訪大和地籍に至つたとき、前方の道路左側に土田富次の乗つた自転車が同一方向に向つて進行しているのを発見した。被告は同人の自転車がそのまま進行を続けるものと考えて、同一速度で且つ警笛を鳴らさないでこれを追い越そうとしたところ、同人が後方に注意を払うことなく右折しようとして道路中央へと寄つて来たのをその五米位手前で発見し、その左側へ出ようとして急いでハンドルを左へ切つたが速度が速くて間に合わず、被告の自動二輪車は同人の自転車の後部に追突した。追突した場所は道路中央よりは左寄りであつた。そして被告の運転する自動二輪車は停止することなく右方へ突進したので、たまたま反対方向から進行して来た原告の運転する軽自動車と正面衝突した。(土田富次の自転車が追突されて後被告の自動二輪車と共に原告の軽自動車に衝突したかどうかは証拠上明らかでない。)事故の発生した場所はゆるく曲つた道路であるが、幅員約七米であつて見通しはよく、当日は天候もよかつたので運転上の支障はなかつた。」

以上の事実からみると被告に運転上の過失のあることは明らかであろう。もつとも、土田富次の自転車が急に右折したことも事故の原因ではあるが、被告は同人の直前に至つてようやく同人の右折の事実に気付き、しかも被告の運転する自動二輪車が余りに高速度であつたためこれを避ける措置をとり得なかつたのであるから、被告にも過失があつたものというべきである。

三、そこで原告の被つた損害について考察する。

成立に争のない甲第九号証、証人矢沢忠美の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第三号証及び矢沢証人の証言を総合すると、次の事実が認められる。

「原告は右の事故によつて軽自動車を破損した外に、右手拇指捻挫の傷害を受けた。原告はこの負傷の治療を篠原接骨院で受け、二百円の治療費を支払つた。原告は自動車修理業を営み且つ知り合いでもある被告に軽自動車の修理について相談したが結局その軽自動車の購入先である共立ミシン合資会社に修理をさせたところ、車体の取替をも要したので修理費として同会社に対し三万三千百八十二円を支払つた。」

これに対し、被告は修理費が妥当でないと抗争し、成立に争のない乙第一号証、証人立木一郎の証言及び被告本人尋問の結果中には以上の認定に反する記載又は供述があるが、これらの記載又は供述は原告所有の軽自動車の破損の程度を表面的に観察した結果に基づくものであるから、前記の各証拠と対比してみると採用し得ないのである。

四、被告の損害賠償責任について。

原告が支出した以上の修理費及び治療費の合計三万三千三百八十二円は被告の運転上の過失により原告に生じた損害であるから、被告は原告に対しこれを賠償する義務がある。

よつて原告の請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮脇幸〓)

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